国宝八角三重塔

 国宝指定、昭和27年3月29日、文化財保護法の規定により「世界文化の見地から価値の高いもので、たぐいない国民の宝」として国宝に指定された。
 塔は本堂の裏を登った山腹にあり松の縁に映えて、重厚な佇まいがどっしりと空間を支えている。建立年代は平成16年の年代調査によって三重塔用材の伐採年代は正應2年(1289)ということが判明し、少なくとも1290年代(鎌倉時代末期)には建立されたことが明らかになり、わが国最古の禅宗様建築であることが証明された。
 建築様式は禅宗様(鎌倉時代に宋から禅宗に伴って伝来した様式で唐様ともいう)八角三重塔で、初重に裳階(もこし:ひさし又は霧よけの類)をつけた珍しい形式であるうえに細部も又、禅宗様の形式からなり類例が少ない。
 内部は8本の母屋柱によって、内陣と外陣とに分けられ、周囲を外陣とし、化粧屋根裏をあらわし、八角形の内陣は高床を張り、天井は中央に天蓋をつり、その周囲に少天井を張ったあまり見られぬ形式である。内陣には建立当時の八角の仏壇をおくが、この形式も又珍しいものである。塔は印度のスツーパを起源とし、元来仏舎利(釈迦の遺骨)を奉安したものだが、中世以降は特定の人物又は戦死者の供養に建てられた例が多い。資料が乏しく造塔の縁起は詳かでないが、この塔もおそらくそのような目的で建てられたものと思われる。内外共に巧みな意匠と、類例の少ない形式より出来ているこの塔は、西大寺(奈良)法勝寺(京都)などの八角塔が失われた今日、わが国に残された唯一の八角塔であり、且つは、禅宗寺院に残る塔としても極めて貴重な遺構である。